センセーショナルな展開が描かれた時「過去のここが伏線だったのでは?」という話をすると、決まって「そんな訳ない後付けだよ」と反応する人がいます。
もちろん場合によっては過去に描いた点に繋げた方がより面白くなると判断して、後付けという形を取った箇所もあるとは思います。
ただ、流石にこればっかりは後付けではないでしょ!と思って止まないのが「ルフィが太陽の神ニカの実を食べていたこと」。
今回はそれについて書いていきます。
決定的な証拠
それがこちらの一コマ。
“56”話で「にかっ!」です。
つまり「ゴムでニカ」。
今読むの止めようと思いました?
気持ちは分かります。確かにこの繋がりだけ単品で提示されても「はいはい、それだけでまた伏線伏線騒いでんの」と思う人もいるでしょう。
確かに笑い声の擬音なんて作中で山の様に使われているし、「にか」なんて探せば他にも沢山ありそうですよね。
…
探しました。
こちらは1話〜56話までに使われた全ての笑い声の擬音とその回数です。(登場順に並んでいます)
ニヤ(ニヤッ) | 3 |
だっはっはっ | 1 |
クスッ | 3 |
にひっ | 1 |
にっ | 12 |
はっはっは | 9 |
にいっ(にい) | 6 |
かっはっはっ | 1 |
ひぇっひぇ | 2 |
ぶぷー | 1 |
に゛っ | 1 |
ニコッ | 6 |
にやり | 1 |
ぎゃーはっはっ | 1 |
くくっ | 2 |
ぷっ | 1 |
わっはっはっ | 3 |
あっはっはっ | 1 |
ププッ | 2 |
ブーッ | 1 |
二゛(二)ーン | 3 |
デヘッ | 1 |
しししし | 1 |
なっはっは | 1 |
うっはっは | 1 |
にかっ(56話) | 1 |
・吹き出し以外の笑い声をカウント
・吹き出し内でも手書きはカウント
・大勢の笑い声はノーカウント
注目して欲しいのが「にかっ」という擬音が56話で初めて使われているという点です。56話までの全コマで「全26種類、計65回」の笑い声の擬音が使われている中、「にかっ」は56話が初めてなんです。
まずはこの事実が一つ。次にいきます。
尾田さんは数字を意識しているのか
尾田さんは他に類を見ないぐらい数字で遊んでいる漫画家です。
その最たるものが“語呂合わせ”であり、分かりやすいのが懸賞金。
ロジャー | 55億6480万B | 648(ろじゃー) |
白ひげ | 50億4600万B | 46(しろ) |
カイドウ | 46億1110万B | 110(ひゃくじゅう) |
ビッグマム | 43億8800万B | 8800(ははまま) |
ロジャーの語呂合わせは648話でも意識されていて、この回はロジャーの数少ない登場回の一つです。
他にも話の本筋とは関係のない細部の設定にまで語呂合わせが見られます。
ロシナンテのマリンコード | 01746 | 逆読みで64710(ロシナンテ) |
サニー号冷蔵庫の暗証番号 | 7326 | 73(ナミ)と2(ニコ)6(ロビン)の間に32(サンジ) |
また、日本人が「死」を連想する「4」という数字。これが3つ並んだ「444話」で描かれたのが死者だらけの島スリラーバーク。
語呂合わせだけでなくこんな遊びもあります。キリスト教徒が「獣の数字」として忌む「666」。この数字の話数でピタリと“獣人”イエティクールブラザーズが描かれました。
あとは、以前動画にしましたが「69」という数字にも重要な意味を持たせていると思われます。
ここまでで尾田さんが「数字で遊んでいる漫画家」であることはある程度理解して貰えたかと思いますので、まだまだある数字遊びは割愛します。
さて、そんな尾田さんが「56話」に「ゴム」の語呂合わせを意識しないなんてことがあるでしょうか?
380話SBSでルフィのイメージナンバーが「56(ゴム)」であると本人が明言されていて、
服にも「56」と書き込んでいるんです。
流石に「56話」にも「ゴム」を意識したでしょうし、その意識があるであろう回に初めて「にかっ」は使われたのです。
つまり、連載初期から尾田さんの頭の中では「ゴムとニカ」がセットになっている可能性が極めて高いということが言えます。
見計らって使われた「にかっ」
ここまで読んでもこう考えている人もいるでしょう。
「いやいや、連載が進んでルフィの強化に行き詰まった時、自身で56話を読み返したらたまたま使っていた『にか』に繋げた可能性もあるよね」
もちろんその可能性がないとは言いません。
ただ、それは56話までの間に「にかっ」という擬音が使われそうなシーンが無ければの話です。
先述したように56話までの全コマには笑い声の擬音が「65回」使われています。
その中で擬音が「にかっ」でも違和感のない描写なら数多くあります。
更に言えば、擬音が使われていないコマでも「にかっ」と添えられていてもいいようなコマは幾らでもあるんです。
にも関わらず、敢えて56話で初めて使ったという点には、どこか見計らっていた様な意図を感じないでしょうか。
では、次は少し視点を変えて「にかっ」という擬音がどれだけ特別なものなのかを書いていきます。
厳選して使われている「ニカッ」
まずは56話以降で描かれた全ての「ニカッ」をご覧ください。
❶ブロギー
❷ノラ
❸ボン・クレー
❹フカボシ
❺ルフィ
❻ルフィ
❼エース
❽ルフィ
56話のものも含めると、2023年10月21日現在で全1095話も公開されていながら、たったの9コマしか描かれていません。更にこれら全ては、あるキーワードで繋がります。
それが「太陽」です。
❶ブロギー
ブロギーの故郷エルバフには太陽信仰があり、太陽の死と復活を祝う“冬至祭”が重要な行事として描かれていました。
太陽の神ルフィの死と復活と何か関係しているかもしれません。
❷大蛇(ノラ)
個体は違いますが、シャンディアでは大蛇が太陽の神の化身であることが描かれました。
つまり、太陽の神(ルフィ)が太陽の神(大蛇)に入って「にかっ!!!」とさせていたということ。
❸ボン・クレー
正直なところ、この中で唯一ハッキリとした太陽要素がありません。
ただ、先述したように懸賞金に語呂合わせを多用している点から考えると、ボン・クレーの「3200万B」は「サニー」を意味している可能性が考えられます。
年齢も「32歳」で合わせていることからもこの数字を意識していることが伺えます。
また、その行動は「解放の戦士」と言ってもいい程に人を解放しています。
・アラバスタにて一味をヒナから解放
・表紙連載にてバレンタインをヒナから解放
・インペルダウンにてルフィ及び囚人を解放
ボン・クレーの「ニカッ」が「56巻」収録なのも含め、どこか太陽の神ニカとリンクする存在なのかもしれません。
❹フカボシ
フカボシの「ニカ」の次のコマでオトヒメも言っていますし、言うまでもないかもしれませんが、魚人族の共通キーワードは「タイヨウ」です。
魚人海賊団のシンボルも「タイヨウ」でした。
❼エース
エースは黒ひげとの決闘の際、「太陽」と揶揄されていましたので、太陽のイメージがあるものと思われます。
❺、❻、❽ルフィ
言わずもがな太陽の神だからこそ「ニカッ」が使われています。
以上の様に、作中で「ニカッ」という擬音を使う対象は、太陽要素があるキャラクターに厳選されていることが分かります。
となるとこんな疑問が浮かぶのではないでしょうか。
「56話のコックに太陽要素は?何故モブのコックに使われたのか?」
ハッキリ言うと太陽要素はありません。ただ、コックの話す「オールブルーの存在」、これこそがニカやジョイボーイと何か深い繋がりがあるのではないでしょうか。
以前ユデロンさんが考察していた「ジョイボーイ=コック」なんて可能性もあるかもしれません。(←個人的に好きな説)
追記:2024.03.29
Xでユデロンさんが教えてくれましたが、106話にも「にかっ」が描かれていました。
サンジはSUN児であり、32(サンジ、サニー)なので一応は太陽要素もあると思われます。よく燃えてますしね。
また、56話でコックの男に初めて「にかっ」が描かれ、2回目もまたコックのサンジ。やはりジョイボーイとコックに繋がりを感じずにはいられませんね。
(追記ここまで)
では、最後に尾田さんがいつから「ゴムゴムの実=ニカの実」という展開を用意していたのか考えてみましょう。
「ゴムゴムの実=ニカ」を設定した時期
まずルフィが太陽の神であることの明らかな匂わせがあるのが空島編。
エネル戦のクライマックスで、スカイピアの人々が絶望のなか“神”に救いを求め祈った場面です。
次の瞬間これに結果的に答えたのが、
もちろんルフィです。
ここで注目して欲しいのが、ルフィは他の雲から独立した雷迎に突っ込んで、雷迎を放電させただけなのに、全ての雲が消し飛んだことです。
↓
恐らく演出を優先した描写だと思われるので野暮な理屈は置いておいて、神への祈りに応えるかの様に、ルフィが「全てを晴れさせた」というこの描写こそが正に「太陽の神」である事の最大の匂わせだったと思うのです。
余談ですが「晴れ」は英語で「sunny」、このシーンの収録巻は「32巻」→サニーです。作者コメントは、空想を実現するニカを思わせる様な内容になっています。
また、もしも32(サニー)の語呂合わせをしているならボン・クレーの数字もやはり意識しているんじゃないでしょうか。
話を戻して、上の様にハッキリと太陽の神らしさが描かれているのですから、空島編時点で「ゴムゴムの実=ニカの実」は十中八九尾田さんの頭の中にあったものと思われます。
それが正しければ、ニカへの覚醒が103巻だったので、少なくとも約70巻も前に構想していたということになります。流石にこれを「後付け」とは言えないのではないでしょうか。
そもそも、この漫画の第1話のタイトルは〝ROMANCE DAWNー冒険の夜明けー〟。
冒険の「始まり」を「夜明け」という言葉にしていることからも、初期構想に太陽の重要性が頭にあるのはほぼ確実と言っていいと思います。
また、尾田さん本人が「ONE PIECEは王道少年漫画(1999年朝日新聞参照)」と言っていますが、王道少年漫画において「主人公の覚醒」というのはお約束です。
そのお約束を「太陽の神になる」というものにしたこと自体は、特段珍しいことでもないと思います。
何故なら、ナルトも太陽キャラですし、炭治郎も日の呼吸使いますし、古くは日本神話もエジプト神話も最高神は太陽の神だからです。世界を見渡せば「太陽」を主題にした話は珍しくはないということです。
ですので、初期構想の段階で「主人公の最終的な覚醒は太陽の神にしよう」と考えていた可能性なんて大いにあるのではないでしょうか。
それがご本人の想像を超えて100巻以上の超大作となり、お披露目を温める期間が長く、長くなってしまったが故に「後付け」に見えてしまっているだけなのだと私は思います。
本記事で示した様に、一箇所だけ切り取って「後付け」に見えてしまう様なことでも、感情的に判断せず、フラットな気持ちで、「後付けじゃない可能性もあるかもしれないな」と是非単行本全体を広く見渡してみて下さい。
もしかしたら、ONE PIECEという物語、ひいては尾田栄一郎という人間の奥深さを知れて、よりこの作品を楽しみ尽くすキッカケになるかもしれません。
それではまた。
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